2016年09月01日

読み継がれるミヒャエル・エンデ 『はてしない物語』

neverending.jpg本日のGoogle日替わりロゴは、「はてしない物語 出版37周年」です。

ドイツ人作家ミヒャエル・エンデの超名作ですね。どこの図書館にも置いてありますので、お子さんがいる方は、ぜひ読ませてほしい。大人が読んでも、また素晴らしい。

Amazonレビューの数は、なんと約140!!思い入れのある人が多い証拠です。






『はてしない物語』は、第一部と第二部に別れています。
第一部は1984年に映画化された『ネバーエンディング・ストーリー』とほぼ同じです。

イジメられっ子のバスチアンは今日も悪童たちに絡まれます。隠れるために逃げた先は古本屋でした。そこで不思議な存在感を放つ本を見つけます。タイトルには『はてしない物語』と書いてありました。
古本屋の外へ出て学校に戻ってもイジメられるだけです。だから『はてしない物語』を読んで時間を潰すことにしました。


『はてしない物語』の舞台はファンタージエンという世界でした。人間以外にも、妖精やドラゴン、そして魔物などが暮らす不思議な世界です。ファンタージエンはこれまで平和でしたが、ある日、突然に暗黒に包まれます。世界が“無”に蝕まれ、崩壊が始まっていました。預言者がファンタージエンを救う“救世主”がどこかにいると告げます。そして、その“救世主”を探し出す役目を若きアトレーユに託します。アトレーユは長い冒険の旅に出ます。

えっ、何で文字に色が付いているかって? 岩波書店の装丁本もこうなっているんですよ。
現実世界の部分はあかがね色(銅色)ファンタージエンの部分は緑色になっているんです。

以下はネタバレ。
物語の中盤になり、アトレーユは救世主というのは、『はてしない物語』を読んでいるバスチアンであることに気付きます。そして、「世界を救うために本の中に来てほしい」と呼びかけます。

バスチアンは心臓が出るほどビックリします。本の登場人物であるアトレーユが自分を呼んでいるからです。
しかも、“救世主”というじゃありませんか。現実世界のバスチアンは、肥満のイジメられっ子です。自信など微塵も持っていません。「自分が“救世主”なわけあるもんか」と思います。


しかし、必死で呼びかけるアトレーユ。

ついに、それに応えるバスチアン。

そして、2色の文字が重なる瞬間が来ます。ここ鳥肌立ちますよ、マジで。
バスチアンが感じたビックリを自分も体験することになります。

そして、バスチアンは本の中のファンタージエンに入り、世界を救います。映画版はここでハッピーエンド。

しかぁし、原作ではこれは単なる第一部の完結に過ぎないんです。

ミヒャエル・エンデが本当に訴えたかったのは、ここから始まる第二部だったんです。
「なんだ、原作と違うじゃないか!! (`0´)」とエンデは映画会社を訴えたほどでした。

第二部は一転してダークになります。子供には難しくてわかりにくいかもしれません。
しかし、やはりここに価値があると思います。

第二部でバスチアンは、現実世界に戻らずファンタージエンを旅します。
彼は心地よさを味わっていました。なにせ彼は“救世主”です。
現実世界では、ただのイジメられっ子だったのに、ここではあがめられる存在です。
容姿も劇的に変化しました。肥満児だったのに、空想の世界のファンタージエンでは、華麗な美剣士に変身です。

いつしかバスチアンは増長し、自分勝手になっていきます。
そして最終的には、一番の仲間だったアトレーユさえも離れていき、一人ぼっちになってしまいます。

孤独になり、ファンタージエンの果てで息絶えようとするバスチアン・・・。
死ぬ間際に後悔しますが、時すでに遅しです。

読んでいてあまりに切なくなります。だって、人間みんながバスチアンのようなものだからです。
大学に受かったとき、事業に成功したとき、恋人ができたとき、結婚したとき、子供ができたとき・・・
うまくいったときはドヤ顔して自慢し、増長する。誰でもそんなもんでしょう。
しかし、それがあまりにひどいと、気付いたときには誰もいなくなっている・・・。

ミヒャエル・エンデは、ファンタジーの中でこんなド直球な警鐘を鳴らしているのです。

はたしてバスチアンは、このまま孤独に死んでいくのでしょうか。
それは、ぜひ読んで確かめてみてください。


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2016年01月10日

NHK『激動の世界 テロと難民 〜EU共同体の分断〜』を見て

nanmin.jpg昨日、NHKスペシャル『シリーズ激動の世界 第1回 テロと難民 〜EU共同体の分断〜』を見ました。巷ではなんだかいろいろあったとされる大越健介キャスターが、元気バリバリにヨーロッパから報道されていて、エネルギーをもらいました。

一方で、その内容は、かな〜〜〜〜り重苦しいものでした。一人で胸に閉まっていると気がふさぐので、ブログに書いた次第です。

シリア内戦で追われた難民がヨーロッパになだれ込み、現在のEUは受け入れ容認と反対に真っ二つに分かれています。もともとEUは、二度の世界大戦と冷戦の反省から、経済統合し、国境を廃し、豊かな経済圏を作ろうという理想で組織されたわけです。その理想が今、危機に瀕しているという。


●ドイツの世論が真っ二つ
難民の受け入れに難色を示す国が多い中、例外的に寛容なのがドイツです。ドイツはヒトラーのナチス政権時にユダヤ人を迫害し、多くの難民を発生させた反省から、メルケル首相の元、受け入れ政策を推進しています。

しかし当然、受け入れに反対する人もいます。中でも旧東ドイツのドレスデンには、とりわけ反対派が多いといいます。反対デモに参加していたあるお父さんの台詞がなんとも言えません。
「1990年、東西ドイツが統一したとき、そりゃ〜素晴らしい未来がやってくると想像したもんです。しかし、不況は一向に改善せず、生活は苦しいまま。それなのに、なぜ私たちの税金が難民救済に使われなきゃならんのです?」

彼は過激派でもネオナチでもなく、本当に普通のお父さんでした。それだけに感情移入しやすく、問題の深刻さが理解しやすかったです。


●東ドイツ テラ オソロシス (( ;゚Д゚))
旧東ドイツ(ドイツ民主共和国、DDR)は、第二次世界大戦の終結後に出現した「分断国家」です。戦争にはさまざまな悲劇が生まれますが、家族や親せきが別の国に分かれてしまう、この「分断国家」も大きな悲劇です。ドイツの他では、朝鮮半島やベトナムがありました。この2地域はさらに悲惨で、朝鮮戦争(1950年〜1953年)とベトナム戦争(1960年〜1975年)という同族で殺し合うところまで行きました。ドイツはそれがなかっただけ、幸いだったといえます。

しかし、社会主義・共産主義国家だった旧東ドイツがハッピーな国だったかといえば、そんなことは決してありません。小説『プラハの春』(春江一也)の中に描写されていますが、その国家像には恐ろしさで震え上がります

登場人物の一人にユルゲン・ヘス中佐というのが出てきます。彼は「シュタージ」と呼ばれる悪名高い秘密特務機関の工作員です。シュタージは、徹底した監視態勢で東ドイツ国民を恐怖のどん底に叩き落としました。その恐ろしさは、ナチスのゲシュタポ、ソ連のKGBさえもしのぐと言われています。
★関連記事 ・展示手法がポップなプラハの「共産主義博物館」


そんな恐怖政治が終わって、1990年にドイツが統一したわけですから、そりゃ嬉しかったでしょう。これからの未来はバラ色だと。

しかし、現実はそうなっていないんですね。戦争はほとんどなくなり平和になったものの、世界は富めるものと、そうでないものとにハッキリわかれつつあると番組では述べていました


★外部リンク
U2のボノ、難民危機について解決しない限り「ヨーロッパが終わる」と語る(NME JAPAN)


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ドイツ在住の著者ならではの視点が重要。日本からドイツを見ると、まさに「隣の芝生は青く見える」が、現実はかなり混迷を極めていることがわかります。

ドイツは苦悩する―日本とあまりにも似通った問題点についての考察

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2014年12月21日

まさに“ザ・手塚治虫”といえる遺作『ルードウィヒ・B』

手塚治虫の作品に、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンを主人公にした『ルードウィヒ・B』というものがあります。

手塚は医者でもありましたが、ピアノの腕前もプロ級という多彩の人でした。中でもクラシックへの造詣は深く、ベートーヴェンを主人公にしたマンガを描くことは彼の悲願だったと言えます。
ただ本作は、手塚が病床にて描き続け、そのまま天寿を全うしたため未完の遺作です。


さて、本作には“ザ・手塚治虫”といえるほど、ムチャクチャなキャラクターが出てきます。
それがフランツ・フォン・クロイツシュタイン

franz.jpg


フランツはルードウィヒのライバル役なのですが、本当のところルードウィヒを恨む理由がありません
かなりムチャクチャな理由で恨みを持つのです。詳細は以下です。
・フランツの家は神聖ローマ帝国皇帝に仕える大貴族
・彼の家では、「ルードウィヒ」という名前のキジを飼っていました
・フランツの母がフランツを身ごもっていたとき、このルードウィヒがギャーギャー騒ぎました
・母はフランツを出産すると亡くなってしまいます。父はこの騒音が原因だと逆恨みし、キジを撃ち殺します
・以降、父は幼いフランツに「ルードウィヒ」という名前の人間や動物を恨むように教育します

( ゚Д゚)ハァ?

・そして、フランツはすくすくと屈折して成長します
・フランツはボンに行ったときにルードウィヒ(ベートーヴェン)と出会います
・フランツは名前が「ルードウィヒ」という理由だけで、一方的に彼を恨みます
・フランツは持っていた杖で、ルードウィヒの頭を殴りつけ、それが原因で耳が聴こえにくくなります
・ベートーヴェンの難聴はフランツが原因という設定です

いかがでしょうか? このムチャクチャぶり。

手塚治虫作品には、こういったムチャクチャなライバルが結構登場します。
 ・『火の鳥 鳳凰編』の茜丸
 ・『アドルフに告ぐ』のアドルフ・カウフマン
 ・『ブッダ』のダイバダッタ

彼らは生まれ育った環境に難があり、屈折した心の持ち主として成長します。そして、執拗に主人公を追い詰めるのです。手塚治虫は晩年、青年誌にて「人間の負の部分」を描き出す、こうした作品を多く描きました。

読んでいると「なんてムチャクチャな」と思うのですが、現実社会では理由もなく人を殺傷する通り魔事件が発生しています。死期が近いなかで、手塚治虫がこうした作品を書いていたことを見過ごすわけにはいきません。


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2014年12月20日

ベートーヴェン 『エリーゼのために』

Beethoven.jpgルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770年〜1827年)は、ドイツのケルン(当時は神聖ローマ帝国ケルン大司教領)生まれ。家は裕福ではなく、父はアル中と恵まれない環境の中で大成しました。

1810年、貴族の娘エリーゼ(テレーゼが本当らしい)に恋をして『エリーゼのために』を書くも、身分違いで破局。しかも40歳頃に全聾に。かように波乱万丈の人生の中で、素晴らしい作品を多数残していったんですね。


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2014年12月18日

バッハ 『フーガト短調(小フーガ)』

Bach.jpgヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685年〜1750年)は、ドイツ(当時は神聖ローマ帝国)のアイゼナハ生まれ。クラシック音楽においての影響力は巨大なものがあり、「音楽の父」と呼ばれています。

1703年、18歳のときにヴァイマルの宮廷楽団に就職しヴァイオリンを担当。バッハにも社会人一年生という頃があったんですね。ただ、彼は天才。この宮廷楽団時期にすでに『フーガト短調(小フーガ)』(1708年〜1717年頃)を作曲していました。


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2014年12月17日

『パッヘルベルのカノン』

paharuberu.jpgヨハン・パッヘルベル(1653年〜1706年)は、ドイツ(当時は神聖ローマ帝国)のニュルンベルク生まれ。その後、音楽の都ウィーンに行き、さらにはアイゼナハに移ります。アイゼナハはバッハの故郷であり、パッヘルベルはバッハ家のオルガン教師を務めたこともあります。

『パッヘルベルのカノン』が作曲されたのは、1680年頃。たんたんと同じ旋律を繰り返す単純な曲にも関わらず、繰り返していくうちに大きな感動を増幅させていきます。山下達郎の『クリスマス・イブ』を含めて、現代音楽で影響を受けている曲は相当数に上ります。


『パッヘルベルのカノン』をロック調にアレンジした『カノンロック』というのがあります。台湾のアマチュア作曲家であるJerry・C(ジェリーシー)がアレンジしてYouTubeにアップしたところ、世界的に有名になりました。皆さんギターを楽しそうに弾いており、見ているだけでハッピーになれます。




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