見方を変えれば陰謀論っぽくなりますが、いずれにしても日本が「戦敗国」であることが大きいでしょう。
私たちが受けてきた教育は、かなり特殊なんだと思います。
そんな感じで、戦争とあまり向き合ってこなかった私たち日本人ですが、安保法制、強行採決、デモ、沖縄などで、ここ最近ザワついています。
「戦争のことはよくわからない、でも知っておきたい、何か起こしたい」。そんな気持ちが、日本人に芽生えているのでしょうか。もしかしたら、戦後70年という節目ならではの現象かもしれません。
知りたければ、やはり読書がいい
戦争のことについて知りたければ、実体験を持つ人に聞くのが本来はベストですが、ほとんどが高齢ですし、皆あまり当時のことは語りたがらないでしょう。やはり、関連書籍を読むのがいいと思います。
とはいっても、初めからいきなり『広島と長崎に原爆が落ちた日』とか『大日本帝国の真実!』とか
『石原莞爾、100年の野望』とか『実録!731部隊』といった書籍には手を出さない方が無難です。内容がよくわからないでしょうし、出てくる描写にトラウマを抱えてしまっては意味がありません。
一人の女性の目線から見る「戦争」

(稲垣麻由美 著、2015年7月)は、誰が手にしても読みやすい本です。
登場するのは、山田藤栄(やまだ・ふじえ)という軍人と妻のしづゑ。二人は結婚したばかりなのに、夫は戦地に行く羽目になってしまいます。お腹には赤ちゃんが宿っていたというのに、当然、子供の顔を見ることなく戦争に行きます。その悲しみたるやいかほどのものであったか。
しづゑは、戦地にいる夫に手紙を出し続けます。そして、その手紙をずーーーっと大切に持ち続けていた夫。この本は、奇跡的に残っていた115通の“恋文”を集めたものなんです。
夕にはお父様が元気で帰られた夢を見ました。
立派なおひげでね。そして、又行くから一寸帰って来られたのだと、
向こうの様子等をお話しになられてお別れしたのでした。
今日は何かお便りでもあるかと心待ちにして居りましたが
淋しいかな何処からもお便りはありませんでした。
どうぞお達者でおいで下さればよいがと、
貴方のご健壮を祈らずには居られません。
お腹の子供も大変元気です。
戦場でこうした手紙を読む、夫・山田藤栄の気持ちになってみて下さい。
(TwT。) 泣くでしょ。「なんとしてでも生きて帰るぞ!」と思うでしょ。
この手紙が地獄から救った!?
実は山田藤栄は、ただの軍人ではありません。なんと、最終階級は少佐。1000人以上の部隊を率いる大隊長だったのです。とはいえ彼が最終的に赴任したのは、フィリピン・ミンダナオ島。結果的に、太平洋戦争でもっとも多くの戦没者を出した地獄の中の地獄、阿鼻叫喚の「南方戦線」のひとつです。
南方戦線というのは、フィリピン、マレーシア、タイ、ビルマ、グアム、ボルネオ、パプアニューギニアなど、東南アジアおよび太平洋各地の戦場のことです。『ゲゲゲの鬼太郎』の作者水木しげるは、ニューギニア戦線・ラバウルにおける戦闘で、爆撃を受け左腕を失っています。
この戦線は、アメリカ軍に次々に攻略され、日本本土からの補給が断たれてしまっていたんですね。そのために飢餓地獄が発生し、さらにはマラリアや赤痢にかかって、兵士たちはバタバタと亡くなって行ったのです。
山田隊長の部下もほとんどが亡くなってしまいました。そして、戦地ミンダナオ島で終戦を迎え、アメリカ管轄の収容所に捕虜として1年間抑留されます。その後、1946年の秋に故郷の福井県に復員。発狂も自殺もせずに故郷に生還できたのは、妻からの“恋文”があったからではないでしょうか。
事実、骸骨のように痩せ細りながら復員した山田藤栄のリュックには、大切に保存されたこの“恋文”が入っていたそうです。
この手紙が時を経て、著者である稲垣さんの手に渡る下りはドラマチック。そして、稲垣さんが出版を決意してから取材する度に、新しい事実や人物が浮かび上がってくる様子もまたドラマチックです。
興味が沸けば、勝手に調べていく
誰でもそうですが、興味が沸けばネットで調べたり本を読んだりして、勝手にどんどん詳しくなっていきますよね。戦国武将にやたら詳しい人が多いのもそうした理由からですが・・・。
なので、この本をキッカケにとくに若い人や女性が、戦争のことについて興味を持ってもらえればいいなと思っています。欲を言えば、同様のジャンルの本がもっと増えてくれればいいのですが、「重苦しい戦争モノよりはダイエット本だ!! モテる本だ!! 頭が良くなる本だ!! 金持ちになれる本だ!!」というのが出版不況にあえぐ出版社の事情でしょうから、それはちょっと難しいかな?
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