しかし中には、普通に使っていたけど、実は「登録商標だった」というものもあります。代表例は「ホッチキス」でしょう。あまりに普通に使われていますが、これ実はイトーキの登録商標だったんです。ちなみに英語ではStapler(ステープラ)といい、欧米でホッチキスといっても通じません。ただし、韓国ではホチキスといいます。
イトーキは東証一部上場の有名企業ですが、歴史はかなり古く、1890(明治23)年創業の「伊藤喜商店」が源流です。同社が明治期にアメリカから輸入したステープラが、E.H.ホッチキス社の製品だったため、これを「ホッチキス自動紙綴器」と名づけて販売したことが由来です。ただ古い時代のため、イトーキが正式に商標登録したという記録は社内にも残っていないらしいです。いずれにしても、今ではれっきとした一般名詞になっています。
「商標の普通名称化」とは?
同様の例は、「エスカレーター」があります。あれも米オーチス・エレベータ社の登録商標でしたが、「エスカレーター」という言葉が普及しすぎて、逆にオーチス社が独占的に使うことが困難になり、1950年以降は商標権を放棄するようになりました。
こうした現象を「商標の普通名称化」といいます。他の例には、「正露丸」(大幸薬品、注1)、「メカトロニクス」(安川電機)、「魔法瓶」(日本電球)などがあり、他メーカーがこれらの言葉を使っても、商標の侵害には当たらないケースが多いです。
「商標の普通名称化」となれば企業は独占できなくなるわけですが、それだけ多くの人に使われ、後世に残っていくわけですから、とても素晴らしいことだと個人的には思います。
1 正露丸は他メーカーによる類似品が多く出たため、大幸薬品は訴訟を起こしたが、1974年と2008年に最高裁によって普通名称化したとの判決が下った。よって、大幸薬品が自発的に放棄したパターンではない。なお現在は、和泉薬品工業、富士薬品、大阪医薬品工業、常盤薬品、キョクトウなどが正露丸を発売している。
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