
明朝が滅亡し、清朝になってからすでに1世紀以上が経った時代が舞台。真冬の山小屋に数人の男女が集まっていました。ここで彼らは、何やらヒソヒソと話をしています。そうです。彼らは、世間には表沙汰にはできない秘密を持っていたのです。
その秘密は複数ありました。ひとつは、自分たちの祖先の話。1世紀以上前、明の滅亡に加担したと思われる祖先がいたというのです。
さらに秘密は続きます。国家的な規模の話から一転。彼らの中には、不倫しているものがいました。話のスケールはグッと下世話になりますが、秘密であることには変わりません。
そして、最後の秘密。彼らの一族に因縁があると思われる「雪山飛狐」と呼ばれる俠客のこと。ウワサだけで、年齢も実力も敵か味方かもわからない「雪山飛狐」とは何者か……。
彼らは、それぞれが微妙なウソをついて保身を図っているため、話はよりいっそう複雑になっていきます。この当たり、芥川龍之介『藪の中』に似ていて、私は好きです。逆に、派手なバトルを期待している人にとっては退屈かもしれません。
そして、物語が中盤になって、ようやく「雪山飛狐」が登場します。この「雪山飛狐」こそ、主人公の胡斐(こ ひ)。髭も髪もぼうぼうに伸ばして恐ろしげな風貌をしている若者ですが、教養も豊かで義俠心に厚いナイスガイです。彼の登場で物語はイッ気に加速しますが、「えっ、これで終わり?」というラストを迎えます。主人公は遅くに登場するし、ラストは「ご想像にお任せします」的だし、何もかもが異色です。
さて、当時の読者たちも、本作の不完全燃焼には不満があったようです。金庸の元にも「どうなってんだ!」というお便りがたくさん来たと言われています。そんな影響があったのか分かりませんが、金庸は第六作目に
『飛狐外伝』(ひこがいでん、1960年)を書きました。とはいっても、本編の続きではなく、主人公・胡斐が少年のときの修業時代の物語です。つまり本編のラストは「ご想像にお任せします」のままなんですね。
「外伝」と言っているものの本編の3倍近い分量で、今度は主人公がしっかり登場し、成長の過程描かれています。また、デビュー作『書剣恩仇録』とも内容がつながっており、このときの主人公・陳家洛も登場します。
以上見てきたように、『雪山飛狐』の原作はかなり短く、逆に外伝の『飛狐外伝』は長いため、この2作をあわせてドラマ・映像化することが多いです。

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