2013年08月15日

芥川龍之介 『南京の基督』

akutagawa.jpg芥川龍之介(1892年〜1927年)、かっこえぇなぁ〜。
文学ジャンキーの永遠の憧れっすね。

お子さんが夏休みの読書感想文に悩んだら、芥川龍之介。
もし生きる道に迷ったら、芥川龍之介。
100冊のノウハウ本より、1冊の芥川龍之介ですよ!!

本日、ご紹介するのは『南京の基督』(1920年)。芥川作品の中では、一般的に馴染みが薄い作品です。
なにせ主人公が娼婦ですからね。さすがに教科書には載せづらく、それで知られていないのでしょう。

実は1995年に、香港・日本の合作で映画化されており、私はそちらの方を先に観ました。
映画の方は内容がヘビーで、逆に原作の方は明るく救いがあります
ただ、どちらも素晴らしいのでオススメです。

●原作のストーリー
舞台は中国・南京。主人公は、南京に住む15歳の娼婦・宋金花。彼女は敬虔なキリスト教徒で、気立てのやさしい娘でした。宋金花は悪性の梅毒にかかってしまいます。すると、同じ娼婦仲間から「客にうつせば治る」という迷信を教えられました。しかし、宋金花はそれではキリストの教えに背くと思い、客をとらずに頑なに拒んでいました。

ある晩、彼女のもとへ外国人の男が客としてやって来ます。ヒゲが生えた彼の風貌はキリストに似ていました。金花は当初拒んでいましたが、キリストに似たその男に抱かれます。その晩、宋金花の夢の中にキリストが現れ、なんと性病が治ったのです。目を覚ました宋金花は、あの外国人はキリストだったのだと思い、感謝します。

翌年の春、ある日本人旅行者が客として宋金花の元にやってきます。宋金花は、自分に起こった奇跡を、その旅行者に嬉しそうに話しました。その話を聞いた日本人旅行者は、そのキリストに似た外国人を知っていました。日米ハーフのGeorge Murryで、「南京で娼婦を買った後、金を払わず逃げた」と自慢していた器の小さい男でした。しかもGeorgeは梅毒にかかって発狂していました。

日本人旅行者はその男の正体を宋金花に教えようか迷いました。そのとき、宋金花に性病の状況を聞いたところ、「あれ以来すっかり治って今は元気だ」と嬉しそうに話していました。

物語はここで終わります。きっと、旅行者は本当のことを話さずにその場を去ったと思います。作品は全体的に明るいです。芥川は「病は気から」「信じるものは救われる」「知らぬが仏」といったことを伝えたかったのでしょうか。


●映画版のストーリー
nankin-christ02.png宋金花を演じているのは、中国人ではなく日本人の富田靖子。明るくて気立ての良い性格は原作通り。キリスト教徒であること、梅毒にかかる設定なども原作通り。
しかし、キリストに似た風貌の外国人は登場せず、奇跡で梅毒が治った設定も出てきません

原作の日本人旅行者は、日本から来た作家・岡川龍一郎に変更されています。風貌から芥川龍之介をモデルにしていることがわかります。演じているのは、日本人でなく中国人のレオン・カーフェイ(梁家輝)。

この二人が恋に落ちるというストーリー。二人はとても幸せな時間を過ごします。しかし、岡川は中国での仕事が終わったので、日本に戻ります。

その後、宋金花は梅毒にかかり、治らないまま廃人のようになってきます。岡川は日本に帰国後、本物の芥川龍之介と同様に自殺してしまいます。見ていて、「おいおい」と突っ込んでしまうほど、重苦しい内容です。

ただ、作品から伝わってくるのは、芥川作品が好きで好きでしょうがないという作り手たちの「芥川愛」
芥川作品に共通する「生と死」というテーマが詰まっています


●芥川龍之介と中国
akutagawa02.jpg芥川作品には、『杜子春』のように中国の古典を題材にしたものもあり、中国には一種の憧れがあったと思われます。『南京の基督』を発表した翌1921年、芥川龍之介29歳のとき。彼は大阪毎日新聞社から中国視察旅行に派遣されます

このとき、芥川は人妻と不倫中で、その女性と早く縁を切るために、中国行きの話に乗ったといわれています。この不倫のエピソードが、映画版『南京の基督』に盛り込まれて、宋金花とのラブストーリーという形になったのでしょう。

中国は、すでに清朝が倒れて中華民国になっていましたが、ほとんど列強諸国の草刈り場のような状態でした。日本も第一次世界大戦のときに上海に租界を設けていました。
そうした世界情勢のなか、芥川は上海、江南地方、長江流域の都市をまわり、その後北京に約1ヶ月滞在しました。悠久でのどかな古都の風情に、彼はすっかり魅せられたようです。

ただ、各地で反日運動が行われており、それを目にした芥川は気分を害したことを『支那遊記』の中に残しています。日中関係が冷えている昨今、いろいろなことを考えさせてくれるエピソードです。

とはいえ、中国でも芥川龍之介の翻訳本は多く、日本人作家の中ではメジャーな存在といえます。
★外部リンク
芥川龍之介が観た 1921年・郷愁の北京(人民中国)


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posted by すぱあく at 09:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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