
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くるまは
いかに久しき ものとかは知る
★歌意
(あなたがおいでにならないので)嘆き嘆き独り寝をする夜の、その明けるまでの間は、どんなに長く感じられるかということを、あなたはおわかりでしょうか。(おそらくおわかりではないでしょうね)
★解説
「拾遺集」の詞書に、この歌のシチュエーションが書かれています。
夫である藤原兼家が久しぶりに、訪ねて来てくれました。
兼家には愛人が何人かいましたから、心が安らぐことがほとんどありません。
さて、門を開けるのが遅れてしまいました。
すると、兼家は「おいっ立ちくたびれたぞ」と不満げに言うじゃありませんか。
藤原道綱母はちょっとキレてしまいます。「門の外でしばらく待つのがそんなに長いのでしょうか?
私が独りで寝る夜の長いことといったら、あなたにわかりますか」と言い返したわけです。
★人物
右大将道綱母(藤原道綱母)(ふじわら の みちつな の はは、936年〜995年)
藤原兼家の側室となり、一子道綱を儲けました。当時の女性は本名を名乗らない習慣があったため、
道綱母と呼ばれました。
文学的な才能に恵まれており、和歌はもちろん『蜻蛉日記』(かげろうにっき)という随筆も残しています。
この『蜻蛉日記』では、夫・藤原兼家との結婚生活の様子などをつづっています。
その内容は赤裸々なもので、夫に次々とできる愛人についての文句やグチなどを書いています。
今でいえば、結婚生活の不満を書いた日記系ブログといったところでしょうか。
これが数百年経てば「文学作品」になってしまうところが恐ろしい。
夫への文句とともに、息子・道綱のことについても「おとなし過ぎるおっとりとした性格」などと書いています。
きっと心配だったんでしょうね。とくに縁談については、よく苦言をつづっています。
いつの世の親も考えることは同じですね。
こんな自己主張の激しい父母に挟まれて成長したためか、息子の道綱は精神が鍛えられ、生真面目な常識人として育ちます。そりゃそうだよな。
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