『新暗行御史』(しんあんぎょうおんし、通称:アメンオサ、原作:尹仁完、作画:梁慶一、2001年〜2007年)です。
原作者、マンガ家ともに韓国人。題材となっている暗行御史(あんこうぎょし、あんぎょうおんし)も韓国史における官職で、水戸黄門のように身分を隠して諸国を漫遊し、地方官吏の不正を裁く官職でした。
韓国っぽいアジアンチックな架空の世界が舞台です。
主な登場人物は、主人公で暗行御史の文秀(ムンス、写真中央)、
その護衛の山道(サンド、写真左)と従者の房子(パンジャ、写真右)。水戸黄門と助さん角さん一行と思えばわかりやすいでしょう。
文秀が掲げているのは「馬牌」というアイテムで、これで「幽幻兵士」(ファントムソルジャー、写真後方)を召喚して悪人を倒します。物語ラストを盛り上げるのは、水戸黄門の印籠に似ています。
このマンガは2004年に映画化

本作の魅力としてよく言われるのが
・美麗で迫力ある絵
・緻密なストーリー があります。私はこれに
・どん底から逆境をはねのけるまでのカタルシス を加えたいと思います。
水戸黄門は圧倒的な権力で悪党どもを簡単にねじふせますが、本作の主人公たちはそうはいかず、
道中で何度も危機的な状況に陥ります。それだけ出てくる敵も強大な連中ばかりなのです。
窮地のときはとことん窮地。絶望的な状況の連続で「さすがに死んだ」と思ってしまうほど。
しかし、その絶望的な状況でも、歯をくいしばって反撃し、ついに爽快なまでのカタルシスを迎えるのです。
このパターンが何回も起こります。
それを象徴するエピソードを見ていきます。
文秀一行は、ある大領主の領内に到着。しかし、そこには領地を奪おうとする西洋軍が暗躍していました。領主が寿命で死んだ瞬間に、侵略に乗り出す西洋軍。領主の娘・平岡(ピョンガン)は西洋軍に降伏を迫られますが、急に降ってきた過酷な運命にただ泣くしかありませんでした。
西洋軍のボスは絵に描いたような悪人で、領地を明け渡さなければ拘束している領民たちを一人ずつ殺していくと脅迫します。
そんな絶望的な状況の中、平岡の前に主人公の暗行御史・文秀が登場。ピンチ脱出か!?と思いきや、文秀もここに来るまでに銃撃を受けてボロボロ。立っているのもやっとの状態で、とても平岡を救う力は残っていません。ピンチ続行です。
それでも平岡を勇気付ける文秀。本作には一貫して「どんな絶望の中にあってもあきらるな」というメッセージが込められています。
文秀の言葉に勇気付けられ、強いまなざしで降伏を拒否する平岡。
まさに“人間賛歌”。このまなざしを持った人間ほど強いものはありません。このエピソードの最大の山場です。
それでも四面楚歌のピンチは続行中。どうなるんだ、これ?
そこに従者の房子が「馬牌」を持って参上。これがあれば幽幻兵士を召喚できる!!
続いて、凄腕のソルジャー山道も参上。ようやく長かったピンチのトンネルを抜けたようです。
さあ来ますよ、カタルシスが!!
「暗行御史の出頭だ!!!」(암행어사 출두야)
幽幻兵士召喚!! びっくりする西洋軍。そりゃ、びっくりするわな。
おりゃぁ一網打尽じゃ〜。「これまでようやってくれたのぉワレ」みたいな感じで西洋軍を一掃。
以上のようなピンチ→カタルシスというテンションがラストまで繰り返されます。全17巻ですが、かなり内容が濃いです。
・デジタル版全巻


韓国史における暗行御史

暗行御史は、李氏朝鮮に置かれた国王直属の官吏でした。16世紀〜19世紀末まであったとされています。
馬牌も実在のアイテムで、これがあれば訪れた村で自由に馬を借りることができました。
最も有名な暗行御史は、朴文秀(パク・ムンス、1691年〜1756年)で、庶民のヒーローとして韓国では何度もドラマや小説の題材になっています。マンガの文秀も彼がモデルです。
1727年に第21代目の国王・英祖によって暗行御史に任命されました。正義感が強く各地で役人の不正を暴き、庶民から尊敬されました。地方を回ったのはわずか4回ながら、各地に文秀を称える逸話が残っています。
![]() | 御史出頭!~暗行御史パク・ムンスの事件簿~ DVD BOX JVDK1161 Vol.1 新品価格 |

![]() | 新品価格 |

★関連記事
・韓国史 年代別記事一覧
・マンガレビュー一覧