
埋もれさせてはいけない『彼女たちの時代』

苦境にあえいでいるフジテレビは、バーチャル女子アナ『杏梨ルネ』なんてやっていないで、すぐに『彼女たちの時代』をDVD化すべきではないでしょうか。
このドラマは放送当時の視聴率が低かったため、見ていた人も少ないと思います。しかし、すべての社会人が共感できる内容なんです。私がこれを見たのは、社会人一年生のとき、もう毎週泣きながら見ていました。
≪あらすじ≫
自宅通勤で、通販会社の苦情処理係で、26歳で、恋人もいなくて、親しい友達もいない…そんなごく普通のOLをやっている羽村深美(演:深津絵里)の人生がほんの少し動きだした。それは気まぐれに新宿にある総合カルチャーセンターを覗いてからだった。
そこで出会ったゴスペルソング教室に通う太田千津(演:水野美紀)も26歳。食品会社から系列のファミリーレストランへ出向させられている。
最初はいけ好かない奴だと思った国際会計士の講座に通う浅井次子(演:中山忍)も26歳。キャリアウーマンを目指していたが営業に配転され、街頭でアンケートをとらされる毎日。
何か分からないけど何かをしたい…26歳を迎えた三人が迷いながらもがきながら、日々を、夏を過ごしてゆく…。
とにかく画期的なドラマでした。ドラマなのに・・・
・山も谷もない
・大恋愛もない
・人も死なない
・フツーの日常を淡々と描く
今までこんなドラマあったでしょうか? 要するにフツーなんです。でも、それが“現実”ってもんでしょう。
韓流ドラマのように、運命の人に出会ったと思ったら、死んじゃったと思ったら、瓜二つの人が現れたと思ったら・・・
ということは“現実”には起きないんですよ。
学生時代が終わり社会人になると、急に窮屈になるものです。
・覚える仕事も多く、家と職場の往復で終わる。
・学生時代は横並びだった友人たちが、結婚やら出世やらで差が出てくる。
・そのうち、こちらや向こうの都合で疎遠になる友人たちも出てくる。
・仕事を続けていれば責任も出てきてしまい、「もう俺、辞めるわ」とはいかない。
そんな“現実”を余す処なく描いたのが『彼女たちの時代』です。
それは、大恋愛のドラマより、人が死ぬドラマよりも、はるかに胸を打つのです。

佐伯啓介は一流大学の法学部を卒業後、大手不動産会社で重大プロジェクトを任され、巨大なマンション街の建築に成功したほどのエリートでした。
しかし、とくに理由も無く「人間開発室」という部署に異動させられます。右がその「人間開発室」。独房ですやんか!? “現実”にも○ナソニック、○ニーといった会社のどこかに存在しているという忌まわしき「人間開発室」!!。
その後、関連の不動産販売会社に出向させられ、畑違いの電話による売り込みの仕事や、上司(平泉成)のしごきに困惑する毎日を過ごします。
いつしか彼の精神は病み始め、かつて自分が手掛けた巨大マンション街をふらつきます。
「あの建物は私がつくったんです。あれも、あの建物も・・・」と、うわ言を言う椎名桔平。
それを見たとき、「いやぁ〜、やめて〜」と心の中で絶叫してしまいました。
ところが、あれだけエリートを目の敵にしていた平泉成でさえ、業績不信の責任を取らされクビになってしまいます。彼でさえ単なる捨て駒という非情の“現実”。
これを社会人一年生のときに見た私は、「会社員がまったくのノーリスクというのは、あり得ないな」と実感しました。本作は、すべての社会人にとって、とくに社会人になったばかりの方に大いに役に立つと思います。
とはいうものの、学生の人はこう思うかも・・・。
「就職するのさえ大変なこのご時世。就職してからもそんな地獄絵図では、
なんのために生きているのかわからないよ」
私もつねにそんなことを考えてきました。そんな方たちにも、このドラマは応援歌をくれます。
最終回、主人公・深津絵里のモノローグ。
多分、人が生きていくのって……面白くないし格好悪いことだらけなんだ。
ドラマチックな出来事なんて、そんなにあるわけじゃない……
小さな小さな日常がずっと延々とつながっているだけなんだ。
でも今、私は思う……同じように悩んでいる人がいる……
同じように答えを出せずにいる人がいる、私だけじゃないんだ……
そう思えただけでよかったと思う。
それにきっと、きっと今こんなふうに
もがいていることは無駄じゃないはずだ。絶対、無駄じゃないはずだ。
そう思えることができたから、たとえ今の自分に何もなくても・・・。
そして、私は少しだけこれからのことが楽しみになってきた。
どんなことがこれから先、私におきるのだろう。
なんだか少しだけ楽しみになってきた。
人はみんなドラマチックなことを期待し、地味で目立たない仕事や生き方をバカにするものです。
また、「隣の芝生は青く見える」もので、他人が幸せでうまくやっているように見えてしまいます。
しかし、「人生なんてこんなもん」ぐらいに気負わずに考えて、粛々と淡々と自分の道を目指せばいいのではないでしょうか。
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