
逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに
人をも身をも 恨みざらまし
★歌意
もし逢う(深い関係になる)ということがまったくなかったならば、
かえって相手(あなた)をも、自分をも恨まないでいるであろうに。
★解説
「逢ふ」は男女が深い関係になること。
「なかなかに」は「かえって」と訳す形容動詞。
「人」は相手の女性で、「身」は自分自身のこと。
恋の歌には、“未だ逢わざる恋(深い仲になっていない恋)”と
“逢ふて逢はざる恋(深い仲になった後、ままならぬ恋を嘆く状態)”とがあります。この歌は後者で、なまじ逢うこともなければ恨むこともないのに、たまの逢瀬があるばかりに、かえって恋の炎が燃え上がり、相手への独占欲や不満が出てくるというもの。おやっ、何百年経っても、男女の感情は不変のようですね。
★人物
中納言朝忠(藤原朝忠)(ちゅうなごん あさただ、ふじわら の あさただ、910年〜967年)
藤原北家、三条右大臣・藤原定方(25番歌歌人)の五男。三十六歌仙の一人。
右兵衛佐・左近衛権少将・左近衛中将など武官を歴任する傍らで地方官を兼ねます。
最終官位は従三位・中納言。
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