逢ひ見ての のちの心に くらぶれば
昔は物を 思わざりけり
★歌意
あなたに逢って共に一夜を過ごした後に募る今の恋心に比べると、
逢う以前の恋の切ない気持ちは、
物思いなどとは言えないほどのものであったことよ。
★解説
「逢い見」は、男女が深い関係になる意味の動詞「逢い見る」の連用形です。
「のちの心」は、深い仲になったあとのますます高まる恋心。
相思相愛でも当時は別々に住んでおり、夫が妻のもとに通っていました。
そのため、一夜をともにしても翌朝になると、また恋しさが募ってきます。
出会った以前にも物思いをしていたはずですが、今の恋しさに比べれば物思いのうちにも入らないと歌っています。
★人物
権中納言敦忠(ごんちゅうなごん あつただ、ふじわら の あつただ、906年〜943年)
菅原道真(24番歌歌人)と対立し彼を左遷させた藤原北家の左大臣・藤原時平の三男。
官位は従三位・権中納言。三十六歌仙の一人。
イケメンで和歌や管絃にも秀でていたそうです。女流歌人との贈答歌も多く残されており、たいそうもてたに違いありません。それでいて38歳の若さで死去してしまうなど、まさに悲劇の貴族という感じ。
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