『ベルサイユのばら』には数々の名シーンがありますが、私が一番好きなのはオスカルがナポレオンとすれ違うシーンですね。
作者の池田理代子は、ナポレオンを主人公にした『栄光のナポレオン-エロイカ』という作品も描いていますが、実は『ベルばら』でもたったワンシーンのみ、ナポレオンをゲスト出演させています。
このときのナポレオンはまだ無名の兵士にすぎません。しかし、野心は体中からみなぎっており、オスカルほどの手練れはその野心に気付き、かつ圧倒される・・・ そんなシーンです。
このシーンにおけるナポレオンの恐ろしさは、あまりピンと来ないかもしれませんが、サラリーマン社会に置き換えてみると実によくわかります。
このときのオスカルの階級は准将(将官の末席)。サラリーマンに置き換えれば、若くしてすでに役員クラスです。しかも、父は将軍(専務クラス)ですから、エリート中のエリートといえます。
ちなみに勤め先のフランス王国はヨーロッパの中核なので、超一流企業といえます。
対して、ナポレオンはどうか。このときのナポレオンは20歳で、階級は大尉。
親のコネがあるオスカルには当然及びませんが、それでもナポレオンもなにげに若くして出世しているといえます。クワトロ・バジーナと同じ階級ですし・・・。
サラリーマンでいえば、すでに主任や係長は卒業し、課長代理心得ぐらいにはなっているでしょう。
さて、本社ビルでオスカル役員は、ナポレオン課長代理心得とすれ違います。そのとき、オスカルはナポレオンの体中からみなぎる野心に圧倒されます。
皆さんが勤めている会社を例に、想像してみてください。
仕事をそつなくこなしている課長代理心得が、虎視眈々と社長の座を狙っている様を。
普段はプロ野球やキャバクラの話をしていながら、
実はどうやってのし上がろうかと考えている様を。
メチャクチャ恐ろしくありませんか?
そして、ナポレオンはフランス革命のどさくさの中で力を発揮し皇帝に昇り詰めます。
サラリーマン社会で例えるなら、創業者一族の現職社長がカジノ賭博で逮捕され、社内は大混乱。その危機の中で力を発揮し、イッ気に社員たちの人望を集めて、社長に推挙されるといった感じでしょうか。
なおナポレオンがスゴイのは、昇り詰めたのが国王ではなく、皇帝であったことです。
ヨーロッパにおける「皇帝」というのはローマ教皇から戴冠されるもので、ローマ帝国皇帝の後継者としての意味を持ちます。会社でいえば、社長を飛び越えて会長に就任したようなものです。
しかも、ナポレオンの野心はここで終わりません。競合会社を次々にM&Aして、ヨーロッパ中を傘下に収めます。
この飽くなき成長欲。現代ならインドの鉄鋼王ラクシュミー・ミッタルや、日本の孫正義のようなものでしょうか。
しかし、いつの時代も急成長というものは長く続かないものです。
ナポレオンの会社も無理な投資(ロシア遠征の失敗など)がたたって倒産してしまいます。その後、会長を解任されて会社を追い出されます。
ところが、短期間ながらもまた会長に復帰します。凄すぎる。ですが、彼の豪運もここまで、最終的には毒殺されます。
この後、フランス株式会社は、革命があまりうまく行かず王政復古します。つまりは、創業者一族による古い体質に逆戻りするわけです。
その後、ナポレオンの甥という人が現れ、“ナポレオン3世”と名乗ってちゃっかりまた会長(皇帝)に就いちゃいます。
「3世って!?、ルパンじゃないんだから」(野田総理)
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2012年12月02日
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