江戸時代の「小町物」の一つで歌舞伎の演目である『積恋雪関扉』(つもるこい ゆきの せきのと)に触れてみたいと思います。
歌舞伎に興味がない人にとっては、セリフは現代語でないしストーリーも縁遠いため、難しく感じるでしょう。しかし、もともと庶民の娯楽だったわけですから、実はそれほど格調高いわけではないのです。
ある意味、『積恋雪関扉』は「アベンジャーズ」のような豪華な企画物と思えばいいでしょう。最近公開された『アベンジャーズ』はアイアンマン、超人ハルク、キャプテン・アメリカといったアメコミのヒーローを集結させた映画でした。
ああいう「ドリームチーム結成!」みたいな話ってアツイですよね。実は江戸時代の人もほとんど同じ発想をしており、「六歌仙を登場人物にして、何か話を一本つくってみようや」というノリでできたのが、小町物『積恋雪関扉』なのです。
●ストーリーもキャラクター設定も自由奔放
六歌仙とは、紀貫之が『古今和歌集』の序文のなかで挙げた平安時代初期に活躍した6人の歌人たちで、
・僧正遍昭 (百人一首12番)
・在原業平 (百人一首17番)
・文屋康秀 (百人一首22番)
・喜撰法師 (百人一首8番)
・小野小町 (百人一首9番)
・大友黒主 を指します。
そのうち、『積恋雪関扉』では以下の3人が登場します。ストーリーからキャラクター設定まで自由奔放もいいところです。
・僧正遍昭・・・隠者
・小野小町・・・僧正遍昭の元カノ
・大友黒主・・・関所の主で、天下を狙う大悪人
黒主 VS 小町桜の精

ストーリーは前半と後半に分かれています。
前半
雪の降り積もる逢坂の関では、不思議に小町桜が咲いている。そのかたわらには良岑宗貞(後の僧正遍照)が隠棲していたが、元の恋人小野小町姫が通りかかり、その仲を関守の関兵衛が取持とうとする。しかし関兵衛はどこか怪しい。小町姫はそれを知らせに都へと走る。
後半
じつは関兵衛こそは天下を狙う大伴黒主(大友黒主のこと)であった。これまでその機会をうかがっていたのだが、星占いの結果今がその時と知る。早速、野望の成就祈願に使う護摩木とするため、小町桜を切り倒そうとする。ところがそのとたんに五体がしびれて身動きが取れない。するとそこに薄墨と名乗る遊女が現れ、関兵衛をくどきはじめる。
しかし実は薄墨こそ、小町桜の精であった。小町桜の精は宗貞の弟である安貞と相愛の仲であったが、その安貞を黒主に殺されており、その恨みを晴らすため人の姿となって現れたのである。やがて二人は互いの正体を現し、激しく争うのだった。
六歌仙が実際に交流していたかどうかはわかりませんが、歴史に「if」の要素を取り入れて楽しむ文化がすでに江戸時代からあったことに驚きます。どうやら、人間の考えることは古今東西あまり変わらないようですね。
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