4月24日、土田世紀が肝硬変のため自宅で逝去した。43歳だった。
土田は1986年、投稿作『残暑』でコミックオープン・ちばてつや賞一般部門に入選。これが『未成年』と題したシリーズ連載の第1話となり、デビュー作となった。1991年に週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)で連載開始した、津軽の高校生が上京して演歌歌手を目指す『俺節』でブレイク。続いて1994年にはマンガ編集者に転身した元ボクサーの成長を描く『編集王』でヒットを飛ばした。
またヤングサンデー(小学館)にて連載された『同じ月を見ている』は、第3回文化庁メディア芸術祭優秀賞を1999年に受賞。同作は2005年に窪塚洋介主演で映画化もされた。その他の代表作に『俺のマイボール』 『ギラギラ』 『ありゃ馬こりゃ馬』『夜回り先生』
など。(2012年4月27日 コミックナタリー)
私も出版社に勤めていた頃、代表作の『編集王』

漫画家の視点で出版業界を描いた作品は『まんが道』




しかし、編集者の視点から出版業界を描いた作品は少ないです。『編集王』以外で思いつくのは、『働きマン』

出版業界は、大手が1割で残り9割は中小・零細企業です。労働実態は、世間のイメージ通り、
超長時間労働&超薄給です。加えて、出版不況のあおりを受けて倒産する企業が続出しており、
本が放つキラキラした輝きとは対照的に裏方の編集者はボロ雑巾のような状態です。
にも関わらず、この業界で働いている人、これから目指す人がいます。私もかつてはその一人でした。
その頃、まわりの友人や家族からは幾度も
なんで、そうまでして働いているの?
何がおもしろいの?
とよく言われたものです。
こればかりは分からない人に1000回言っても分かってもらえないでしょう。
しかし、その理由をあえて説明するのであれば、『編集王』第5巻


私にとって、本とは・・・・・・ 精神を高めてくれるモノなんです。
太宰治が孤独を教えてくれ、宮沢賢治が宇宙を教えてくれ、三島由紀夫が理想を教えてくれ・・・
正座して読むものでしたよ、本は・・・・・・・!!

俺だって本が好きだ!
好きで好きでしょうがなくて、この業界にやってきたんだ!

俺はそうゆう“プライド”を、書店に営業して回りてえよ!
誇りで仕事が出来るんなら、給料なんかいらねえんだよ こちとら!
以上にすべての答えが詰まっていると思います。
答えは非常にシンプルで、出版業界で働いている人はジャンルや職種は違えど本が好きなんです。
さらに細かく言うと、書くことが好き・調べるのが好き・知識を増やすのが好きな知的好奇心が旺盛な人たちです。
一般論では仕事を選ぶとき、「好きなものは仕事として選ばない方がいい」とされていますが、
彼らはそれができない因果な業を持った人たちといえます。
彼らにとって、お金や出世や世間体などは優先順位が低く、だからこそ徹夜を続けることも、給料が安くても働けるといえます。
しかし、「それでいい」と思っている人はいません。誰だって休みやお金がほしいに決まっています。
それでも、彼らは数々の矛盾の中で苦しみ、もがいています。出版不況の影響でその傾向はますます強くなっています。
たとえば、「予算も人員もない。締め切りはすぐ目の前。だが、いいものを早く作れ、そして売れ!!」
といった無理難題が現場に降ってくることは日常茶飯事です。
仕方がなく、現有スタッフが徹夜を続けてなんとか完成させている、そんな出版社がほとんどではないでしょうか。
皆さんが読んでいる本やコミックは、そうした裏方たちの奮闘によって生まれているといえます。
まるで現代版・蟹工船ですが、出版業界には就職しない方が無難なのでしょうか?
それは、生活を安定させようとしたら、間違いなく就職しない方がいいです。
また、「休日は彼女とデートだぜぇ、夏は海だぜぇ、冬はスキーだぜぇ」という人もやめておいた方がいいです。
しかし、人生修行の場と考えるならば、ここほど最適な業界はありません。
事実、今の私はここでの経験によって成り立っています。
私は取材を通して、日本と中国の政治家、経営者、芸能人、学者たちにたくさんお会いする機会に恵まれ、おかげで見識がかなり広がりました。こうした方々とお会いできるのは、出版業界の魅力のひとつです。
また、徹夜と無理難題をこなすうちに、どんどんタフネスになっていきます。私の仲間のほとんどは、今では独立か転職していますが、みんな「あの頃より悪くなることはもうない。今後何が起こっても生きていく自信がある」と口々に述べています。
日本人の多くが将来に不安を感じている昨今において、このタフネスは貴重だと思います。
出版業界で働くと残念ながら若い頃はあまり報われないと思います。ですが、研鑽を続けていれば、いずれは
フィリップ・マーロウのようなオヤジになれると思います。
「タフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」
そんなセリフが似合う漢になりたい方は、出版業界のドアを叩いてみてはいかがでしょうか。
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