
トランペッターでジャズの帝王
マイルス・デイビスが亡くなってから今年で20年。
NHKでは、9月25日に特集番組を制作し、マイルスの軌跡を振り返りました。この番組のコメンテーターとして参加した音楽ジャーナリストの
小川隆夫氏とジャズミュージシャンの
菊地成孔氏は、ともに大のマイルスファン。好きで好きでしょうがないという
マイルス愛が、見ているこちらにも伝わってきました。
さて、私はこのマイルス・デイビスの人生は、
手塚治虫に似ていると感じていました。
最初に言っておきますが、マイルスと手塚治虫、この2人には特別な接点はありません。
マイルスが日本のマンガを好きだったという話は聞きませんし、手塚治虫にしてもクラシックや宝塚歌劇は好きでしたがジャズが好きだったとは聞いたことがありません。
しかし、彼らはともにジャズにおける、マンガにおける
先駆者であり革新者です。
先駆者の人生は、驚くほど共通点、相似性があるのだと感じます。まずは、「革新を求め続けた姿勢」を見ていきます。
●マイルスの変化@ビバップにおける挫折
1944年、マイルスのキャリアはビバップの巨人
チャーリー・パーカーの元ではじまります。しかし、ここではなかなか芽が出ませんでした。
Aクールジャズ

1948年に編曲家の
ギル・エヴァンスと出会い、クラシック音楽に影響を受けたハーモニーなどを取り入れます。さらに、トランペットにハーマン・ミュートを付け、寂れた繊細な音色を磨き上げます。そして、1955年に発表した
『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』が大ヒットし、
ジャズ=「夜の都会の音楽」というイメージを決定づけ、モダンジャズの頂点に立ちます。
Bモードジャズ

民族音楽の影響を受け、西洋音楽の音階とは異なる
「モード」と呼ばれる音階に注目します。そして、このモード音階の中で、自由にアドリブを重ねていく、これまでになかった「モードジャズ」を生み出します。1959年に発表した
『カインド・オブ・ブルー』も大ヒット。収録曲の「So What」はモードジャズを代表するスタンダード曲として今も愛されています。
Cフュージョン

1962年にビートルズがデビューして以降、ロックが若者から熱狂的な支持を受け、ジャズは急速に“過去の音楽”になってしまいます。しかし、マイルスは意気消沈するどころか、
「俺にできないわけがない。俺ならもっとうまくできなきゃおかしい」(
『マイルス・デイビス自叙伝』)とメラメラと闘志を燃やします。そして、それまでジャズのタブーだった電子楽器(エレキギター、シンセサイザーなど)を精力的に取り入れます。そして、ジャズでもない、ロックでもないフュージョンと呼ばれるジャンルを創造し、1969年に発表した
『ビッチェズ・ブリュー』ではグラミー賞を受賞します。なお、この頃のマイルスは“電化マイルス”や“エレクトリック・マイルス”と呼ばれ、若者には支持されながらも、オールドファンからは評判が悪かった時期です。
Dポップス

1975年以降、1980年にカムバックするまで長い休息期間に入ります。復帰後はポップ色が強くなり、1985年に発表した
『ユア・アンダー・アレスト』では、
マイケル・ジャクソンの「Human Nature」と
シンディ・ローパーの「Time After Time」のカバーを収録します。シンディ・ローパーは当時大ヒットしていたとはいえ、まだデビュー5年目の新人ですよ。その新人の曲を“帝王”がカバーするんです。普通の人間なら自尊心が邪魔してできませんが、マイルスは平気なんです。大御所と呼ばれる地位に安住することを好まず、いつも第一線の若い感性に触れていたい、そんなマイルスの思いと巨大な器が伝わってきます。
Eラップ/ヒップホップ
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マイルスにも晩年がやってきます。しかし、その疾走ぶりは衰えることがありませんでした。黒人が住むストリートで生まれたラップ/ヒップホップをも取り込もうと考えます。そして1991年、ラップミュージシャンであるイージー・モー・ビーをゲストに迎え、
『ドゥー・バップ』を発表し、これが遺作となります。
この革新を求めて疾走し続けたエネルギー源は何だったのか。
マイルス自身の言葉に答えがあるような気がします。
「この世に大嫌いなことがあるとしたら、それは自分の音楽に飽きることだ」
「古い音楽が好きならレコードを聞いてくれ、俺は過去なんてどうでもいいんだ」
「人生は変化であり、挑戦だ」★関連記事・マイルスと手塚治虫の相似性
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マイルス編 手塚編・
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