それ以後、影響を受けてリアル路線を追求した作品が増加。その波はなんと、特撮ヒーローモノである仮面ライダーにまで波及しました。
そして放送されたのが、『仮面ライダー響鬼』(2005年)でした。
昭和にやっていてしばらく断絶していた仮面ライダーは、2000年に『仮面ライダークウガ』がオダギリ・ジョーの主演でヒットします。オダギリ・ジョーはその後スターダムにのし上がり、仮面ライダーも「平成仮面ライダーシリーズ」として復活し今も続いています。『仮面ライダー響鬼』はシリーズ第6作目に当たります。
●リアルな設定が大人を夢中にさせた
さて、たいていの男の子は戦隊モノや特撮モノを見て育ちます。あの世界観は子供の頃は気になりませんでしたが、大人になってから考えると、いろいろと不思議な点があります。
・戦隊の組織はどこの管轄か(政府? 国連?)
・資金源はどこから来るのか?
・基地には戦隊のメンバーと博士ぐらいしかいないけど、事務スタッフはいないのか?
・メカやロボットがたくさんあるが、メカニックはいないのか?
・兵隊の総数は、敵組織の方が圧倒的に有利なはずだけど・・・
・戦隊メンバーは年頃の男女で、女性が少ない。誰かが恋愛関係に陥ったらややこしいことにならないのか?
と、考えれば考えるほど、不思議なことだらけ。この現実的な考えを設定に取り入れたのが本作でした。
キーマンとなるプロデューサーは、『仮面ライダークウガ』をヒットさせた高寺重徳(当時、東映)。「今までにない仮面ライダーをつくる」、きっと高寺氏は燃えていたと思います。通常、仮面ライダーは無名の若手が主演するのですが、今回は意欲作なので、ベテランの細川茂樹が起用されました。では、本作はどんな点がリアル路線なのか見ていきます。
仮面ライダーは職業である
本作の仮面ライダーは「鬼(おに)」と呼ばれています。「鬼」は「猛士(たけし)」という組織に属して、妖怪を倒す職業になっています。「猛士」は吉野(奈良県)に本部があり、主人公たちは東京都葛飾区柴又にある関東支部に所属しています。さらに、この関東支部は表向きは甘味処「たちばな」として飲食店になっています。同時にオリエンテーリングのNPOとしてアウトドア用品を販売しており、これらの売上が資金源になっているのです。・・・リアルすぎる。
シフト制で働いている
通常のヒーローは不眠不休で働きますが、現実的には不可能です。そのあたりも本作はリアルに描いています。戦いで負傷した「鬼」は入院し、その穴を別の「鬼」が埋めます。関東支部には常時4〜5人の「鬼」がいますので、それが可能になっています。
バイクにのれない仮面ライダー
主人公の響鬼(演:細川茂樹)は、ペーパードライバーという設定。リアルにもほどがある。当初バイクを持っておらず、車の運転も下手なので助手にお願いしています。なんと主人公は車の助手席で移動するのです。申し訳ありませんがこれはカッコ悪い。
若い男女がいれば恋愛も生まれる
「猛士」に所属する女性スタッフと若い「鬼」(仮面ライダー)に恋が芽生えるというエピソードが描かれます。現実世界ならばあっても不思議ではありませんが、ヒーローものではかなり珍しいです。
すごいでしょう、このリアル路線。これは働く大人の琴線に触れたらしく、大きな話題を呼びました。事実、マンガ家の吉田戦車などはファンを公言していました。
●子供たちには大不評だった
しかし、本作で夢中になったのは大人だけだったようです。メインターゲットの子供たちからの人気はかなりイマイチでした。すると、オモチャが売れません。スポンサーのバンダイから改変を要求されます。
ドラマ後半からプロデューサーの高寺氏は降板(後に東映を退社)し、ストーリーもこれまでと似て非なるものが展開されます。今度は大人のファンが離れていき、結果、視聴率的にも興業的にも大失敗という結果で終わります。ある意味、このドタバタしたエピソードこそ大人の社会そのものと言えます。
では、なぜ子供たちの人気を得られなかったのか。分析してみます。
ドラマに力点を置きすぎて、アクションが乏しい
子供にとってはややこしいドラマよりもライダーキックの方がいいんですね。
詳細な設定を視聴者に理解してもらうため、説明がやたらと多い
これは大人が見ても疲れます。いわんや子どもでは・・・
恋愛もピンと来ない
若手の「鬼」(仮面ライダー)が彼女に何をプレゼントするかで悩むシーンがあります。子供にとっては「そんなシーンいいから、ライダーキックしてよ!」と思ったことでしょう。
バイクに乗れないライダーってどうよ
「リアル路線はいいから、バイクに乗ってよ!」という子供の声が聞こえてきそうです。
『踊る大捜査線』はリアル路線を追求して大ヒットし、『仮面ライダー響鬼』はリアル路線を追求して大失敗した。ふたつの違いはメインターゲットが大人と子供で違ったことでした。
ただ、『仮面ライダー響鬼』の世界観は丁寧な作りで決して悪いものではありませんでした。またいつか大人も楽しめる特撮作品が登場してほしいものです。
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