『踊る大捜査線』です。本作の登場以前と以後では、刑事ドラマの歴史にハッキリとした線が引かれます。
それまでの刑事ドラマは『西部警察』のように現実的な路線を無視した荒唐無稽なものがほとんどでした。
・刑事が街頭でショットガンをぶっ放す。
・殉職する刑事がやたらと多い
・一般車道に戦車が走る
・犯人を追って、広島や香港にまで行く(管轄違うでしょ)
しかし、いつしかそんな刑事ドラマもワンパターン化して行き詰ってしまいました。
そんななか『踊る大捜査線』は、警察官という公務員のリアルな姿を描く野心作として1997年にスタートしました。このドラマがヒットした要因は「あぁ、わかるわかる」という世の大人たち、社会人たちの共感を得たからだと思います。
●細部までリアルにこだわった人物設定
たとえば、このドラマでは、それまであまり描かれなかった「警察の階級社会」が描かれました。ノンキャリアの青島俊作(演:織田裕二)とキャリア官僚の室井慎次(演:柳葉敏郎)には、そもそも埋めがたい溝があります。しかし、彼らはときにぶつかりあいながら理解を深めていく、それがこのドラマの魅力になりました。
このシーンは、きっと多くの世の大人の共感を得たと思います。公務員だったらダイレクトに感情移入できるでしょうし、大企業に勤めている人も上司と現場との軋轢を思って夢中になったかもしれません。組織にもまれている青島刑事の姿と自分を重ね合わせて見ていた人も多いのではないでしょうか。
また、これまでの刑事ドラマは、刑事 VS 凶悪犯という構図がほとんどでした。しかし『踊る大捜査線』では、犯人の前に同じ警察という組織の厚いカベが立ちはだかります。
・パトカーを使うためには「車両使用許可」を得なければならない
・銃を発砲するためには「発砲許可」を得なければならない
・現場の捜査は本庁(キャリア)に従わなければならない etc・・・
さらに面白いのは、登場人物にかなり詳細なプロフィールを加えていることです。主人公の青島俊作を例にとると、彼は青山学院大学経済学部を卒業後、シンバシ・マイクロシステムというIT企業に就職します。そこで営業マンとなり、トップの営業成績をおさめます。しかし、やりがいを求めて辞職し、警察官(刑事)を目指します。
これもかなり現実に迫っています。事実、私の先輩に民間企業を辞めてから公務員試験を受けて警察官になった人が何人かいます。
また、青島は営業マン時代に培った営業トークを捜査で活用するシーンがあります。私は当時、事務機器の営業をやっていたので、この部分でもかなり共感を覚えました。
●大ヒット後におとずれた伸び悩み
本作は快進撃を続け、映画も大ヒット、スピンオフ作品も多数出るなど、邦画界を牽引してきました。そしてその後、雨後のタケノコのように似たようなドラマが乱立していきました。
しかし、快進撃を続けてきた『踊る大捜査線』も映画第3作目は興行成績が伸び悩み、不評のようです。ただ、これは仕方がないように思います。
テレビドラマ版がはじまったときは、「なんでも実験してやろう」という深夜番組のようなノリありました。だからこそ、ユースケ・サンタマリアや水野美紀のように当時は無名の俳優もイキイキと描かれたのだと思います。
それが今では邦画史上に名を残すビッグタイトルになってしまいました。もはや実験的なことはできず、有名な俳優を並べるしかありません。そうなると、このドラマが本来持っていた新鮮さがまったくなくなってしまうんですよね。ゴールデンに昇格したとたんに伸び悩む元深夜番組と同じです。それでも、刑事ドラマの新境地を切り開いた功績はとても大きいと思います。
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