それは『イエスのビデオ』(著:アンドレアス・エシュバッハ)というドイツのSF小説で、ストーリーからしてワクワクしますよ。
主人公で学生のスティーブンは、イスラエルの遺跡発掘に参加し、そこで一体の人骨と副葬品の布袋を発見します。驚くべきことに袋の中にはなんとビデオカメラの説明書が入っていたのです。しかも、ソニー製の。
人骨は2000年前のものにも関わらず、現代医学の治療跡までありました。この人物は過去へ片道のタイムトラベルをしたのでしょうか。
ではカメラを見つければ、驚異の映像がそこに映っているのではないか。2000年前のイスラエルといえば、あのイエス・キリストが処刑されたところではないか。
さあ、ここからはハリウッド映画のような展開になってきます。遺跡発掘隊のスポンサーで、世界的なメディア王がまず動きます。ビデオを探すべく私兵をイスラエルに投入するのです。と同時に、キリスト教(カトリック)の総本山であるヴァチカンに出向き、ゆすります。
「あなたがたが大事に敬っているメシアが映っている貴重な資料があるんだけど、どうする?」と。そして国家規模の金額を要求するのです。

「ヴァチカンを単なる慈善団体とでも思っているのかねぇ。本気だせば、大企業のひとつぐらい訳ないんですよ」と、暗殺部隊をイスラエルに派遣します。
このふたつの部隊に、主人公のスティーブンは狙われるのです。
で、このままハリウッドっぽい結末になるのかなと思ったら、ドイツの小説だけあって違いました。アクションが急におとなしくなり、「宗教とは何か」「人生とは何か」という哲学っぽい内容になっていきます。主人公側が正義で、それ以外が悪という構図も薄れていきます。ハリウッド映画が好きな人たちは、この当たりから退屈になると思います。
結局、物語のキーになるはずのタイムトラベルもそれほど重要にはなりません。ただ、ビデオは発見され、主人公たちはそのビデオを見ます。しかも、シッカリと映っています。あのキリストが。で、それを見た主人公たちの反応は・・・。ここは実際に読んでいただいた方がいいかもしれませんね。
作者のアンドレアス・エシュバッハは、この部分がいいたくて、SFエンターテイメントの外観を借りたようです。よって、ド派手なハリウッド作品を期待すると大して面白くないのでご注意を。
エシュバッハは、シュトゥットガルト大学航空宇宙工学科卒。コンピュータ・コンサルタント会社の経営を経て、96年に作家デビュー。理系の名門大学を出ているため、豊富な専門知識が盛り込まれた作風がドイツでヒットしました。この『イエスのビデオ』は、米、英、仏、伊など7カ国で翻訳され、米ではビデオ化もされました。ぜひご一読ください。
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ラベル:キリスト教