手塚は医者でもありましたが、ピアノの腕前もプロ級という多彩の人でした。中でもクラシックへの造詣は深く、ベートーヴェンを主人公にしたマンガを描くことは彼の悲願だったと言えます。
ただ本作は、手塚が病床にて描き続け、そのまま天寿を全うしたため未完の遺作です。
さて、本作には“ザ・手塚治虫”といえるほど、ムチャクチャなキャラクターが出てきます。
それがフランツ・フォン・クロイツシュタイン。
フランツはルードウィヒのライバル役なのですが、本当のところルードウィヒを恨む理由がありません。
かなりムチャクチャな理由で恨みを持つのです。詳細は以下です。
・フランツの家は神聖ローマ帝国皇帝に仕える大貴族
・彼の家では、「ルードウィヒ」という名前のキジを飼っていました
・フランツの母がフランツを身ごもっていたとき、このルードウィヒがギャーギャー騒ぎました
・母はフランツを出産すると亡くなってしまいます。父はこの騒音が原因だと逆恨みし、キジを撃ち殺します
・以降、父は幼いフランツに「ルードウィヒ」という名前の人間や動物を恨むように教育します
( ゚Д゚)ハァ?
・そして、フランツはすくすくと屈折して成長します
・フランツはボンに行ったときにルードウィヒ(ベートーヴェン)と出会います
・フランツは名前が「ルードウィヒ」という理由だけで、一方的に彼を恨みます
・フランツは持っていた杖で、ルードウィヒの頭を殴りつけ、それが原因で耳が聴こえにくくなります
・ベートーヴェンの難聴はフランツが原因という設定です
いかがでしょうか? このムチャクチャぶり。
手塚治虫作品には、こういったムチャクチャなライバルが結構登場します。
・『火の鳥 鳳凰編』の茜丸
・『アドルフに告ぐ』のアドルフ・カウフマン
・『ブッダ』のダイバダッタ
彼らは生まれ育った環境に難があり、屈折した心の持ち主として成長します。そして、執拗に主人公を追い詰めるのです。手塚治虫は晩年、青年誌にて「人間の負の部分」を描き出す、こうした作品を多く描きました。
読んでいると「なんてムチャクチャな」と思うのですが、現実社会では理由もなく人を殺傷する通り魔事件が発生しています。死期が近いなかで、手塚治虫がこうした作品を書いていたことを見過ごすわけにはいきません。
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