2014年11月11日

魅力的な人物たちが物語を彩る『笑傲江湖』

xiaoaojianghu.jpg『笑傲江湖』(しょうごうこうこ、1967年)は、金庸の第十三作目。人気、知名度ともに上位にある金庸の代表作。私が2001年に中国留学していたときに、中国中央電視台(CCTV)が制作したドラマ(主演:李亞鵬)が放映されていました。毎週テレビにかじりついて見ていたこともあり、個人的にはナンバーワンの金庸作品です

物語は福建からスタート。林平之(りん へいし)は、運送業「福威鏢局」の跡取りでした。地域に大きな影響力を誇っていた「福威鏢局」でしたが、ある日、林平之を残したすべての家族、従業員が皆殺しにされます。実はこの事件、究極の奥義「辟邪剣譜」(へきじゃけんぷ)を狙った青城派による凶行でした。林平之は復讐を誓い、華山派に入門します。

で、かなり物語が進んでから、ようやく主人公の令狐冲(れいこ ちゅう、演:李亞鵬)が登場します。華山派の一番弟子、つまり林平之の兄弟子に当たります。おおらかな性格で、人望も厚い青年です。しかし、そのうち令狐冲も「辟邪剣譜」や武林統一を狙う勢力の陰謀に巻き込まれていきます。

令狐冲は好青年なのですが、物語の序盤から中盤にかけては悲惨な境遇のオンパレード。次々に襲い掛かかる敵は強敵ぞろいで、太刀打ちできません。加えて、あらぬ疑いをかけられて独房に入れられたり、恋仲だった岳霊珊(がく れいさん)は弟弟子の林平之とくっついたりと、読んでいて辛くなります。

そんな令狐冲でしたが、謎の女性・任盈盈(じん えいえい、演:許晴)との出会いで運命の歯車が動き出します。実は任盈盈は、武林の中でも華山派にとっては超敵対組織「日月神教」(にちげつしんきょう)の教主の娘でした。

この物語、陰謀が渦巻きすぎて、人によってはとっつきにくい可能性があります。それまで善人だと思っていた人物が極悪人だったり、悪人だと思っていた人物が仲間になったりと、読んでいる読者も混乱必至だからです。

しかし、それを補って余りあるのが、魅力的な登場人物たちです。不屈の精神で何度も立ち上がる主人公の令狐冲。とくに中盤以降は、「独孤九剣」(どくこきゅうけん)、「吸星大法」(きゅうせいたいほう)、「易筋経」(えききんきょう)といった反則級の奥義を次々に身に付け、無敵になります。そんな彼を支える恋人の任盈盈。
加えて表は善人、裏では極悪人の師匠・岳不群(がく ふぐん)。復讐のため、最強の奥義を身に付けるため去勢までしてしまう林平之。任盈盈の父で化け物じみた武功の持ち主・任我行(じん がこう)などなど、凄い連中が、これでもかと登場します。


dongfang2.jpg極めつけが、「武功天下第一」の東方不敗(とうほう ふはい)。原作ではちょこっとしか登場しないのに、中華圏で圧倒的な知名度を誇る人物です
東方不敗を有名にしたのは、『スウォーズマン/女神伝説の章』(1991年、原題:笑傲江湖之二 東方不敗、主演:ジェット・リー)で演じたブリジット・リン(林青霞)でした。原作では醜悪な老人という描写でしたが、ブリジット・リンが演じた東方不敗の美しさは人々の心をわし掴みにしました。これ以降、妖艶で中性的なイメージが東方不敗のデフォルトになったのです
ちなみに、『機動武闘伝Gガンダム』(1994年〜95年)に「東方不敗マスター・アジア」という人物が登場しますが、これが元ネタになっています。

さて、「武功天下第一」と呼ばれるこの東方不敗、どれほど強いのでしょうか? 2001年CCTV版で解説してみます。
東方不敗は元々、日月神教のNo2でしたが、教主の任我行を幽閉して自分がNo1になります。令狐冲は、任我行の娘で恋人になった任盈盈、教団No3の実力者である向問天とともに任我行を救出することに成功します。そして、令狐冲、任盈盈、任我行、向問天という屈指の使い手4人がパーティーを組み、東方不敗に戦いを挑むのでした。
xiaoao.jpg

まさに『笑傲江湖』のクライマックスシーン。対決前の緊張感はサイコーです。そもそも任我行は、東方不敗にこそ敗れていますが、ラスボスクラスの強さを持っています。他3人も凄まじい武功を持つ実力者たちです。しかし、この4人が一斉にかかっても、東方不敗に一蹴されてしまいました。それほどまでに異次元の強さだったのです。結局、奇襲によってなんとか倒しますが、そうでもしなければとても叶わない無敵っぷりでした。


★関連記事
武侠小説の巨人、金庸  ・中華明星一覧
ブックレビュー一覧  ・映画・ドラマレビュー一覧  ・ゲームレビュー一覧


秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)

新品価格
¥864から
(2014/11/10 20:17時点)




笑傲江湖(しょうごうこうこ)〈デジタル・リマスター版〉 [DVD]

中古価格
¥5,967から
(2014/11/10 20:18時点)




令狐冲もストUシリーズのキャラクターとして登場した!

リボルテック SFO レイコチュウ

新品価格
¥600から
(2014/11/10 20:18時点)


posted by すぱあく at 05:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月10日

ド天然「のら犬」 VS ド悪人ども ― 『侠客行』

kyokakuko.jpg『侠客行』(きょうかくこう、1965年)は、金庸の第十二作目。

山の中で母親と、犬以外と接してこなかったため、世間を全く知らない主人公。名前も最後まで明らかにならず、母親から罵倒されて呼ばれていた「狗雑種」(のら犬)が、名前のようになっています。

この母親、機嫌が悪いときは息子を罵倒し、虐待までするウルトラ・モンペア。あまつさえ失踪します。しょうがないので「のら犬」は下山し、世間(江湖)と触れることに。そこで偶然、どんな願いもかなえてもらえる「玄鉄令」というものを入手し、さまざまな騒動に巻き込まれていきます。

「のら犬」は世間を知りませんからド天然。対して彼に襲い掛かる連中は、悪以外の要素が見当たらないほどの悪。極端な方向に振り切れている人間同士が対峙するとどうなるのか…? 多分、こうなる

ちなみに画像は、1989年のドラマ版。「のら犬」を演じたのは、トニー・レオン(梁朝偉)。当時27歳(現52歳)。役者の知名度を爆発的に上げてくれる金庸ドラマ。スターと呼ばれている人のほとんど全てが、何かしらの金庸作品に出演した結果、現在の地位を築いています。


★関連記事
武侠小説の巨人、金庸
ブックレビュー一覧
中華明星一覧


侠客行〈第1巻〉野良犬

中古価格
¥1から
(2014/11/10 09:43時点)




侠客行(きょうかくこう)DVD-BOX

新品価格
¥18,741から
(2014/11/10 09:46時点)


posted by すぱあく at 06:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月09日

民族問題、国際問題を深く考えさせられる『天龍八部』

tianronbabu.jpg『天龍八部』(てんりゅうはちぶ、1963年)は、金庸の第十一作目。代表作のひとつですが、かなり長いので他作品をひと通り読んだ上級者向けといえます。11世紀末の宋代(北宋)が舞台。主人公は3人もいて、それぞれが別の民族です。

一人目、喬峯(きょう ほう)のちに蕭峯(しょう ほう)。武術の達人で人望もあつかったのですが、出生が契丹人(きったんじん)であるということが周囲に暴露されてしまいます。当時、契丹人が建国した遼は北宋の宿敵。出自が敵民族ということがわかった途端、居場所をなくし、追い詰められていきます。

二人目、段誉(だんよ)。雲南大理国の王子で、争いを嫌う平和主義者でしたが、図らずも数々の絶技を身につけてしまいます。

三人目、虚竹(こちく)。少林寺の僧。仏教に深く帰依していましたが、心ならずも戒律を破ってしまいます。

以上3人は、親や先祖が遺した確執に運命を翻弄されてしまうところに共通点があります。ある意味とばっちりですが、大小の差はあれ、どんな人間でもそういったところがあると思います
それぞれの話は独立していますが、それらがいつしか不思議な縁で結び合わさっていきます。その物語の重厚さは、金庸でなければ成しえなかったものでしょう。

本作も含めて、金庸作品には様々な民族の人物が登場しますが、「漢民族が一番エライ」という中華思想は出てこないんですね。そのため、普遍的でどの国の人が読んでも面白いのだと思います。民族問題・国際問題というのは、古代から現代に至るまで人間が存在する以上発生する問題なんですね。それらについて深く考えさせられる作品です。


★関連記事
武侠小説の巨人、金庸
ブックレビュー一覧
中国史 年代別記事一覧


天龍八部一 剣仙伝説 (徳間文庫)

中古価格
¥230から
(2014/11/9 08:51時点)




天龍八部 DVD-BOX 1

新品価格
¥9,990から
(2014/11/9 08:54時点)


posted by すぱあく at 08:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月08日

陰謀と復讐! まさに金庸版モンテ・クリスト伯の『連城訣』

renzyoketu.jpg『連城訣』(れんじょうけつ、1963年)は、金庸の第十作目。
主人公の狄雲(てき うん)は熱心に修行し、妹弟子の戚芳(せき ほう)とも恋仲になり、順風満帆でした。しかし、あるとき身に覚えの無い罪を着せられ、牢獄に閉じ込められてしまう狄雲。しかもあろうことか、愛する戚芳は自分のもとを離れ、恋敵だった万圭(ばん けい)に嫁ぐ始末。

牢獄で絶望的な気持ちになる狄雲でしたが、そこで丁典(てい てん)という男に出会います。仲良くなるうちに、丁典は全ての元凶である「連城訣」の秘密について語り出すのでした。

「連城訣」の秘密を探るため、牢獄にいる狄雲と丁典に襲い掛かる刺客たち。それらを次々に倒し、ある日遂に脱獄を遂げる二人。そして、狄雲は陥れた人物たちへの復讐を誓うのでした。

以上のあらすじを読んで、「あれ〜、どっかで聞いたことがあるストーリーだな〜!?」と思った人もいるかと思います。そうです。フランスの文豪アレクサンドル デュマが書いた不朽の名作『モンテ・クリスト伯』(『岩窟王』)にそっくりなんです。そのため、本作はよく金庸版『巌窟王』と呼ばれることがあります。

そもそも、デュマの『モンテ・クリスト伯』は名作中の名作。多くの名だたる作家が愛読書にしています。金庸もその一人で、本書から着想を得たのです。物語は他作品と比べて短く、比較的読みやすい作品です。


★関連記事
武侠小説の巨人、金庸
ブックレビュー一覧


連城訣〈上〉菊花散る窓 (徳間文庫)

中古価格
¥1から
(2014/11/8 09:52時点)




連城訣 DVD-BOX

新品価格
¥14,650から
(2014/11/8 09:56時点)


posted by すぱあく at 09:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月07日

金庸ならではの面白さが光る短編集『越女剣』

etsuzyoken.jpg長編小説をメインに書いた金庸ですが、短編小説も3本書いています。日本語翻訳版は、3本とも短編集『越女剣』に収録されています。
鴛鴦刀(えんおうとう、1961年) 第八作目、清代が舞台
白馬は西風にいななく(1961年) 第九作目、時代不明・シルクロードが舞台
越女剣(えつじょけん、1970年) 第十五作目、春秋戦国時代が舞台

スケールの大きな物語を得意としている金庸ですが、短編小説も面白いんです!
短くまとまって読みやすいので、ビギナー向けともいえます。

中でも一番短いのが『越女剣』。しかも、舞台はず〜っと古代の春秋戦国時代。本作は、「臥薪嘗胆」(がしんしょうたん)という成語が生まれた呉と越の戦いをテーマにしています。「臥薪嘗胆」は、復讐のために耐え忍ぶこと。また、成功するために苦労に耐えるという意味の成語です。現代でも良く使われていますね。以下、呉越の戦いをざっくり解説。
呉王は越に破れて死ぬ際に、後継者の夫差(ふさ)に「必ず仇を取るように」と言い残し、夫差は「三年以内に必ず」と答えます。夫差はその言葉通り国の軍備を充実させ、自らは薪の上で寝ることの痛みでその屈辱を思い出しました。これが「臥薪」の意味です。

まもなく夫差は越に攻め込み、越王勾践(こうせん)の軍を破ります。勾践は部下の進言に従って降伏。夫差の馬小屋の番人にされるなど苦労を重ねましたが、許されて越に帰国した後も民衆と共に富国強兵に励み、その一方で苦い胆(きも)を嘗(な)めることで屈辱を忘れないようにしました。これが「嘗胆」の意味です。

その間、強大化した呉王夫差は覇者を目指して各国を攻め、国力を疲弊させます。その隙をついて、越王勾践は満を持して呉に攻め込み、夫差の軍を破ったのです。呉に敗れてから20年後の悲願達成でした。

以上の話をベースに、架空の人物・阿青(あせい)。実在の人物である越の大夫・范蠡(はんれい)や絶世の美女・西施(せいし)らが物語を彩ります。


★関連記事
武侠小説の巨人、金庸
ブックレビュー一覧
中国史 年代別記事一覧


越女剣―傑作武侠中篇集

中古価格
¥1から
(2014/11/7 06:03時点)


posted by すぱあく at 06:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年11月06日

極端な登場人物がとりわけ多い『倚天屠龍記』

itentoryuki.jpg『倚天屠龍記』(いてんとりゅうき、1961年)は、金庸の第七作目。『神G侠侶』の約一世紀後、モンゴル帝国が南宋を滅ぼし、国号をと称するも、その支配も陰りが見えてきた時代が舞台。

『射G英雄伝』『神G侠侶』、『倚天屠龍記』の三作は、明確な続編であるため、俗に「射G三部作」と呼ばれています。とはいえ『倚天屠龍記』は、『神G侠侶』から約一世紀も時代が経っているので、共通の登場人物はさすがに少ないです。

金庸作品には、あまり普通の人が出てきません。そんな中でも本作は、極端な登場人物がとりわけ多いです。主人公の張無忌(ちょう むき)は、超善人。子供の頃は病弱で、いつ死ぬかもわからない状況でした。辛うじて成長するも、周囲からイジメに遭ったり、数々の策謀、陰謀に巻き込まれたりします。しかし、性格が超素直なため、降りかかる苦難をみんな良い方に受け取ってしまいます。おかげで、困らせようと思っている連中も調子が狂う始末。

張無忌は男らしいというよりも、危なっかしくて見ていられないタイプ。おかげで複数の女性に好意を寄せられます。しかし、「この人」という決断ができないため、4人の美女をフラフラしているうちに、最後まで女難に悩まされます

しかし、張無忌は決して軽薄なわけではありません。むしろ、超がつくほど素直な彼のおかげで、複雑怪奇な江湖・武林が少しずつ整理されていくのです。といっても、彼にはそうした自覚がないところがまた面白いですが……


★関連記事
武侠小説の巨人、金庸
ブックレビュー一覧
中国史 年代別記事一覧
モンゴル帝国史年表


倚天屠龍記 単行本 全5巻 完結セット[マーケットプレイス文庫セット] (徳間文庫)

中古価格
¥3,800から
(2014/11/6 06:16時点)




倚天屠龍記(いてんとりゅうき)DVD-BOX1

新品価格
¥15,435から
(2014/11/6 06:16時点)


posted by すぱあく at 06:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする