2015年06月17日

学校で勉強できるありがたさを実感してしまう『子供の情景』

kodomonojyoukei.jpg『子供の情景』(ハナ・マフマルバフ監督、2007年)。岩波ホールでしか上映していなかったので、知っている人はかなり少ないと思いますが、アフガニスタンを舞台にしたイランとフランスの合作映画です

私たち日本人にとって、中東諸国は地理的にも文化的にも「遠くて遠い国」なのですが、こうした映画を見ると少しだけ身近に感じることができます。内戦などで、教育の環境がほとんど機能していないアフガニスタンで、どうしても勉強したくなった女の子の物語です

タリバンによって、バーミヤンの仏像が破壊された2001年以降のアフガニスタンが舞台。6歳の女の子バクタイは、隣人の男の子アッバスが教科書を読んでいる姿に憧れます。自分もどうしても学校へ行きたい。でも、家にはお金がありません。それなので、町へ出て卵を売り、ノートを買うことにしました。鉛筆を買うお金もないので、母親の口紅を鉛筆代わりにすることにします。道中、タリバンの影響を受けた少年たちに囲まれ「戦争ごっこ」に巻き込まれたり、結局学校へ通えなかったり、散々な目に遭うバクタイ・・・。

いろんなシーンが驚きの連続です。まず、女の子たちが住む家は、ほとんど「洞窟」のような住居。内戦続きで、生活に余裕がないのがわかります。また、学校もただ机があるだけで、校舎と呼べるほど立派なものはありません。

それでも、子供たちの目は、好奇心でキラキラしています。学校の教科書を見ただけで、喜びに溢れるバクタイの顔は何とも言えません


混乱が収束しないアフガニスタン
Afghanistan.pngアフガニスタンは現在に至るまで、ずっと混乱の中にある国です。かつてシルベスター・スタローンが主演した『ランボー3 怒りのアフガン』(1988年)という映画がありましたね。アフガニスタンに軍事介入していたソ連にランボーが“たった一人で”戦いを挑むストーリーでした。奇しくも、この映画が公開された年に、国際社会からの非難からソ連はアフガニスタンから撤退します。

しかし、それで「めでたしめでたし」にならないところが、この国の悲劇です。

結局、内戦が起こり、その中からタリバンが誕生。アルカイダと結びつき、2001年のアメリカ同時多発テロ事件の原因となります。その後はアメリカ軍による空爆などで、タリバン政権は崩壊。カルザイ氏が大統領となり、一応は収束します。それでも安定には程遠く、タリバンの残党に加えて、近年はISまで台頭。もうカオスです。

そんな国際情勢に翻弄される民衆と子供たち。映画『子供の情景』では、その無慈悲さをユーモアに包みながら描いています。

個人的には、学校の勉強なんて吐きそうなほど苦手でしたが、本作を見た後でなら「あぁ学校で勉強ができるって、とってもありがたいことなんだな」と感じてしまいます。


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2015年06月07日

パレスチナとイスラエルの往復描写に価値がある『10年後、ともに会いに』

10nengo.jpg友人に薦められた本を読了したので、ご紹介します。寺井暁子『10年後、ともに会いに』。ジャンルは旅行記。しかも、著者の寺井さんが、女性たった一人でほぼ世界中を周っています。こう聞くと、さぞかしパワフルな女性なんだろうと思ってしまいますが、そうではありません。敏感な感性を持っていることは間違いありませんが、基本は「普通の女性」です。

では、どうしてそんなムチャクチャな旅をできたかというと、彼女には大きな目的があったのです。世界中に散らばっている高校時代の友人に会いにいくという目的が


ユナイテッドワールドカレッジを修了
一般的な日本人の感覚からすると、「世界中に同級生が散らばっている」という状況は普通ではありません。それは著者が「ユナイテッドワールドカレッジ」(wiki)を修了したからです。これは世界約80ヶ国の高校生を対象にしたプログラムで、試験に合格すれば奨学金が出て、2年間留学できるのです。プログラム校は世界12ヶ国にあり、著者はアメリカ・ニューメキシコ州の学校に通いました。

アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ノルウェー、ボリビア、イスラエル、シンガポールなど、世界80ヶ国からやってきた同級生たちと、共通言語である英語を使って交流する。あまりに異質な世界ですが、柔軟な若者同士なら国境や言語を越えて、いともあっさりと交流できるのかもしれません。


27歳、女一人旅を決行!
そんなエキサイティングな青春時代を過ごした著者も社会人になり、東京で働いていました。詳しい描写はありませんが、社会人として行き詰っていたようです。どんな人でも、働いて3年過ぎた頃には悩みが出てきます。まして、著者は広い世界を知ってしまった人。「日本社会の常識」が、著者を苦しめていたかもしれません。そして何度も迷った末、仕事を辞めて、世界中に散らばっている同級生に会いにいく旅に出ます。しかも、女一人旅。それでも行かなければ、停滞する自分から脱却できない危機感があったのだと思います。

第一部は、ヨーロッパ・北米編。読んでいると、とてもオシャレな雰囲気が漂ってきます。ウィーン、ボストン、ロンドン、ダブリン、パリ、ミラノ、ベルリンなどに住んでいる同級生を訪ねる著者。しかも、同級生たちは国連職員だったり、起業したり、大学院生だったりと、世界的なエリートがどっさり。浮世離れしていて、感情移入できない読者も多いかも。


パレスチナとイスラエルを何度も往復!
感情移入できない状態のまま、第二部でさらに追い打ちをかけます。なんと、イスラエルに行くのです。同級生の中にはユダヤ系も多くいて、その中にはイスラエルで生活している人もいるんですね。

israel.jpgしかも、凄いことにパレスチナにも行って現地の人たちと交流しちゃいます。とはいっても彼女は決して、困難をものともしないスーパーウーマンなわけではありません。「友達に会いに行こうとしている普通の女性」なんです。だから、ビクビクしながらバスに乗ったり、検問を通る様子が伝わってきます。加えて、イスラム教やユダヤ教の専門家でもありません。なぜこの地で紛争が起こり、今も解決していないのか、その当たりの知識も一般的な日本人と同じです。だから、逆に感情移入できると思います。


この第二部に書かれている内容は、本当に価値があります。そこに行かなければ知りえないことがたくさん載っているからです。


・イスラエルからパレスチナには簡単に行けるのに、その逆は凄まじく厳しいチェックがある。
・ユダヤ教徒、イスラム教徒、キリスト教徒がいっしょになってクリスマスを祝うシーンがある。
・アラブ語を勉強するユダヤ人もおり、平和を願う人たちも少なからずいる。
・エルサレムはいかにもな宗教都市。一方、テルアビブは一大観光都市。 etc...


本書は普通の本屋やAmazonでは売っていない
第三部も凄く、2011年に発生したエジプト革命に居合わせています。ぜひ手に取って読んでみてください。さて、ここまでレビューを書いておいてなんですが、本書は普通の本屋やAmazonでは売っていません。東京都国分寺市にあるクルミド出版が独自に作った本だからです。購入されたい方は、公式サイトにてどうぞ

このクルミド出版は、クルミドコーヒーというカフェが手掛けています。スターバックスのような大資本ではなく、普通のカフェが書籍を作っているのです。なんだか、吉田松陰や新島襄のような志の高さを感じます。


西国図書室でも借りられるよ!
nishikoku.jpg本書は西国図書室(にしこく としょしつ)でも借りられます。えっ?西国図書室って何かって?まったくの個人がやっている私設図書室です。自宅の一室を日曜日だけ開放しているんですよ。こちらの館長さんが私の高校時代の友人で、本書を貸してくれた人です。彼のように、自宅の一部を町の人に開放する取り組みは「住み開き」といって、各地で行っている人が増えています。西国図書室も新聞・雑誌・テレビ・ラジオなどでずいぶん紹介されています。

お気に入りの本があったら、ここに預けておくと町の人が借りていってくれます。つまり、「本が旅に出る」わけですね。借りた人は、本に付いている「旅の記録」に感想を書くという仕組み。本を通して、見知らぬ人とつながる感覚を持つことができます。う〜ん素敵ですね。ちなみに私も金庸の『射雕英雄伝』を置いてきました!面白いのに日本での知名度が低すぎるので、ぜひ読んでくださいね〜。


“本の良心”として必要な存在
クルミド出版も西国図書室も、個人ができる範囲で行っているものです。こうした人たちは、“本の良心”として必要な存在だと思います

私は出版社で修業し、取材・編集から書店&取次営業まで、本の制作に関わることはほとんど体験しました。なので、出版業界が抱えている病気を目の当たりにしています。すでに大手でさえ業績が悪化しており、「売れれば何でもいい」という末期的なところまで来ているのです。

書店に行ってみればわかります。嫌韓・嫌中本がズラリ。売れるから止められないそうですよ。あとは無難なダイエット本とか、頭が良くなる本とか、大切なことはすべて○○から教わった本とかですかね。とくに最近は猫も杓子も「ピケティ本」。1年後にはあのほとんどがブックオフに並んでいるんだろうな〜。

商業出版に“本の良心”が薄れてしまっている現状であれば、灯を消さないように努力している人たちの存在は際立ちます。どうぞ、そうした人たちの活動にも注目してみてください。


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2015年06月04日

マンガ化&アニメ化で話題再沸騰中の『アルスラーン戦記』

arsulan01.jpg歴史ファンタジー小説『アルスラーン戦記』。『銀河英雄伝説』『創竜伝』と並ぶ、田中芳樹の代表作です。私も高校生の頃、凄まじいハマり方をしていました。
開始してから約30年経っても、まだ終わってないけどね(泣)
遅筆で有名な田中芳樹先生ですが、完結まであと2巻ぐらいでしょ、頑張ってください!!

本作は現在、『鋼の錬金術師』の荒川弘によってマンガ化&アニメ化
公式サイト)されており、話題が再沸騰しています。とにかく面白い。とくに歴史ファンなら、一発でハマってしまう魅力を持っています。
あらすじ。舞台は中世ペルシアをモデルとした架空の国、パルス王国。繁栄を極めた大国でしたが、西方からキリスト教国をモデルにしたルシタニアが侵攻してきます。これまで無敗を誇ったパルス王国は、重臣の裏切りなどもあり、敗北。王都エクバターナは陥落し、主人公アルスラーンの父・国王アンドラゴラス三世も捕虜になってしまいます。九死に一生を得たアルスラーンは最強の武将ダリューンと共に落ち延び、知略家ナルサスたちと反撃の旅に出ます。

国の滅亡という大ピンチで、物語の幕が上がります。その後、アルスラーンたちは苦難の連続ですが、一騎当千の頼もしい部下たちに支えながら、ひ弱だった自分自身も成長していきます。

arsulan02.jpg


上は荒川弘によるアルスラーンたち。これももちろんカッコイイですが、やはり往年のファンにとっては、
天野喜孝がイラストを描いた角川文庫版ですよね。本当に美しかった。
 画像出典:天野喜孝オフィシャルサイト旧版(http://amanosworld.blog.so-net.ne.jp/


モデルになっている「中世ペルシア」ってどの当たりの時代?
さて、舞台のモデルになっている「中世ペルシア」について見ていきます。そもそも私たち日本人は、西アジアや中東のことについてあまり詳しくありません。学校でも習いますが、無味乾燥な暗記なので現代社会となかなか結びつきません。

場所は、現在のイラン当たり。イランはかつてペルシアと呼称し、その地に栄えた古代王朝もペルシアと呼ばれていました。

続いて時代ですが、「中世ペルシア」と言っても「日本史の中世」(12世紀〜16世紀)とは異なります。もっと古い、ササン朝ペルシア(226年〜651年)の時代を指します。

アルダシール1世によって建国され、6世紀のホスロー1世の治世で最盛期を迎えます。しかし、彼の死後、東ローマ帝国との戦いで国力を疲弊してしまいます。そんなピンチのところに、ムハンマドがアラビア半島で起こしたイスラム勢力がペルシアに侵入。勢いの止まらないイスラム勢力にとどめを刺されて滅亡してしまいます。それまではゾロアスター教を国教としていたペルシアは、その後イスラム教に様変わりし、そのまま現在のイランもイスラム教国家です。

ペルシアなんて、日本人にとっては遠い国、遠い時代かもしれません。ですが『アルスラーン戦記』は、きっとそれを身近にしてくれるでしょう。


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2012年03月15日

オマル・ハイヤーム 『ルバイヤート』

umal.jpgオマル・ハイヤームは、11世紀セルジューク朝の天文学者であり、詩人です。
彼の詩集『ルバイヤート』は世界中で翻訳され、今まで読み継がれてきました。
さあ、一緒にあすの日の悲しみを忘れよう、
ただ一瞬のこの人生をとらえよう。
あしたこの古びた修道院を出て行ったら、
七千年前の旅人と道伴れになろう。

考え方は非常にシンプルで、「死んだら土に帰る。先に待つものは無だ」と述べています。
「だから今を楽しめ」というのです。

人間の死への恐怖と生への執着は普遍的な出来事ですから、どの時代、どの国でも受け入れられるのだと思います。


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2011年03月08日

過去と未来をジャンプするタイムトラベラーたち3

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』からアニメ『時をかける少女』まで、タイムトラベルをテーマにした作品は無数にあります。そこで今回は、あまり知られていないけど、オススメできる名作をご紹介します。

それは『イエスのビデオ』(著:アンドレアス・エシュバッハ)というドイツのSF小説で、ストーリーからしてワクワクしますよ。
主人公で学生のスティーブンは、イスラエルの遺跡発掘に参加し、そこで一体の人骨と副葬品の布袋を発見します。驚くべきことに袋の中にはなんとビデオカメラの説明書が入っていたのです。しかも、ソニー製の。

人骨は2000年前のものにも関わらず、現代医学の治療跡までありました。この人物は過去へ片道のタイムトラベルをしたのでしょうか。

ではカメラを見つければ、驚異の映像がそこに映っているのではないか。2000年前のイスラエルといえば、あのイエス・キリストが処刑されたところではないか。

さあ、ここからはハリウッド映画のような展開になってきます。遺跡発掘隊のスポンサーで、世界的なメディア王がまず動きます。ビデオを探すべく私兵をイスラエルに投入するのです。と同時に、キリスト教(カトリック)の総本山であるヴァチカンに出向き、ゆすります。

「あなたがたが大事に敬っているメシアが映っている貴重な資料があるんだけど、どうする?」と。そして国家規模の金額を要求するのです。


max.jpgしかし、そこは天下のヴァチカンです。『HELLSING』のマクスウェルばりに負けてはいません。

「ヴァチカンを単なる慈善団体とでも思っているのかねぇ。本気だせば、大企業のひとつぐらい訳ないんですよ」と、暗殺部隊をイスラエルに派遣します。

このふたつの部隊に、主人公のスティーブンは狙われるのです。

で、このままハリウッドっぽい結末になるのかなと思ったら、ドイツの小説だけあって違いました。アクションが急におとなしくなり、「宗教とは何か」「人生とは何か」という哲学っぽい内容になっていきます。主人公側が正義で、それ以外が悪という構図も薄れていきます。ハリウッド映画が好きな人たちは、この当たりから退屈になると思います。

結局、物語のキーになるはずのタイムトラベルもそれほど重要にはなりません。ただ、ビデオは発見され、主人公たちはそのビデオを見ます。しかも、シッカリと映っています。あのキリストが。で、それを見た主人公たちの反応は・・・。ここは実際に読んでいただいた方がいいかもしれませんね。

作者のアンドレアス・エシュバッハは、この部分がいいたくて、SFエンターテイメントの外観を借りたようです。よって、ド派手なハリウッド作品を期待すると大して面白くないのでご注意を。

エシュバッハは、シュトゥットガルト大学航空宇宙工学科卒。コンピュータ・コンサルタント会社の経営を経て、96年に作家デビュー。理系の名門大学を出ているため、豊富な専門知識が盛り込まれた作風がドイツでヒットしました。この『イエスのビデオ』は、米、英、仏、伊など7カ国で翻訳され、米ではビデオ化もされました。ぜひご一読ください。


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ラベル:キリスト教
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